宇宙最遠の巨大爆発を捉える
観測史上最も遠い天体からの光を捉える
すばる望遠鏡が持つ銀河の世界最遠方発見記録(約129億光年、赤方偏移 = 6.96)を上回る、赤方偏移が8.2、約131億光年彼方の天体からの光を岡山天体物理観測所188cm望遠鏡で捉えることに成功しました。
宇宙では、しばしばガンマ(γ)線バーストという現象が起こります。大質量星が崩壊してブラックホールが作られる超新星という巨大爆発現象に伴い、強いガンマ線のビームが特定の方向に放射されるものと考えられています。ガンマ線だけでなく、バースト発生から時間が経つにつれて急速に暗くなる可視光や赤外線での「残光」が捉えられれば、ガンマ線バーストの距離や性質を詳しく調べることができます。 こうしたガンマ線バーストは、その爆発現象の巨大さのために、宇宙のはるか彼方でも発見されてきました(注1)。そして、昨年に記録されたGRB 080913の赤方偏移=6.695がこれまでで最遠の記録でした(赤方偏移の値が大きいほど、距離が遠いことを意味します)。
しかし、ついに赤方偏移としてはじめて8の大台にのる天体が現れました。2009年4月23日(日本時間16時55分)に発生したガンマ線バーストGRB 090423 です。この天体はアメリカのガンマ線天文衛星スイフトによって、しし座の方向に検出されました。そして、地上の望遠鏡による追観測のため、その正確な位置が全世界の研究者に伝えられ、即座に多くの望遠鏡が向けられたのです。
国立天文台岡山天体物理観測所の口径188cm望遠鏡に装着された赤外線観測装置ISLE(アイル)も追観測を行い、この天体からの残光を捉えることに成功しました。岡山天体物理観測所では同時にガンマ線バースト専用光学望遠鏡MITSuME(注2)でも観測しましたが、可視光ではまったく残光が見えず、非常に大きな赤方偏移をしたバーストであることが示唆されました。遠方天体からの光は宇宙空間にわずかに分布する水素原子に吸収されるので、波長の長い赤外線しか届かないためです。岡山天体物理観測所で観測を実施した吉田道利所長は、「ちょうど赤外線観測装置の試験中でラッキーだった。まさか188cm望遠鏡で宇宙最遠の天体が見られるとは想像していなかった。ガンマ線バーストはいつどこで起こるか予測ができないので、世界中に観測システムを整えておく必要を痛感した」と語っています。
さらに、スペインにあるガリレオ望遠鏡(口径3.6m)や、チリにあるヨーロッパ南天天文台の口径8m望遠鏡VLTなどで残光の詳しい分光観測が行われ、その距離がGRB050904の記録を破る約131億光年(赤方偏移8.2)と求められました。この距離は、すばる望遠鏡が持つ銀河の世界最遠方発見記録(約129億光年、赤方偏=6.96)をも上回るものです(注3)。すなわち、岡山天体物理観測所で捉えられた、このガンマ線バーストの残光の輝きこそ、これまで人類が見た中では最遠の天体からの光ということになるわけです。
図3:岡山天体物理観測所188cm望遠鏡+赤外線観測装置ISLE(アイル)がとらえた、赤方偏移z=8.2のガンマ線バーストGRB090423(図中の拡大図の真ん中に丸印で囲ったところに写っている天体)。波長1.2ミクロンの赤外線で131億光年かなたからのかすかな光をとらえることに成功した。
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現在、この天体について詳細な解析がすすめられています。ガンマ線バーストの観測で成果を上げてきた「すばるGRBチーム」を率いる東京工業大学の河合誠之教授は「これからも同様な遠方のガンマ線バーストが見つかる可能性がある。ことによると、赤方偏移が20以上で誕生したと考えられている宇宙で最初に生まれた星が起こす爆発を目撃できるかも知れない。このようなガンマ線バーストは銀河や星ができ始めたばかりの幼い宇宙を探る有力な手段となる」と述べています。これからもガンマ線バーストからは、目が離せません。
注1:2005年9月4日(日本時間)に検出されたガンマ線バーストGRB 050904は、すばる望遠鏡によって、128億年(赤方偏移z=6.295)という正確な距離が測定され、当時のガンマ線バーストとしての最遠記録を樹立しました(国立天文台アストロ・トピックス (139))。
注2:岡山天体物理観測所 ガンマ線バースト専用光学望遠鏡MITSuMEについては、国立天文台アストロ・トピックス(178)を参照してください。
注3:すばる望遠鏡が持つ銀河の世界最遠方発見記録(赤方偏移=6.96)については、国立天文台アストロ・トピックス(242)で解説しています。
注4:すばる望遠鏡はスケジュールの都合でガンマ線バーストGRB 090423 を観測することができませんでした。
参照:
すばる GRB 050904(昨年までの最遠方ガンマ線バースト)観測速報ページ
ESO プレスリリース(英語)
NASA Swift プレスリリース(英語)